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三月二十七日 [映画]

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大磯駅前の小高い山の中腹にある桜が満開だ。一番桜と呼んでいいような咲き始め。桜の老木は駅前の広場からは見えない。日本最始のツーバイフォー建築という洋館の横をうねるように降りていく坂の木々の中の大空に咲いている。咲き誇る桜は坂道を足元や前方を見て歩く限り桜には気がつかない。数年前の四月の半ば、新緑が山を包み笑い出したような頃に、坂を歩く頭上に白く舞い降りる花びらを見たのが最初だった。真上に覆いかぶさるように咲く桜は、山桜のようだガラス細工のように光を通す、花たちの間を沢山の小鳥が行き交っていた。人々は道を行き交うのに忙しい。地上のそのすぐそばに咲き誇る花の姿を見て、楽園はこんなにも近くて遠いものかと溜息をついたのだった。

一昨日観た映画『妻への家路』のシーンが断片的に思い出される。夫に急いで大きな饅頭を作る妻の姿、生成り色の乳房ほどもある饅頭が並ぶ。練炭ストーブの上で湯気をあげる取っ手に古裂が巻かれた真鍮の薬缶。エイゼンシュタインの戦艦ポギョムキンの階段シーンのような俯瞰で撮られた跨線橋の群衆の中で転がる饅頭。夫が作る幅広の麺の熱々のシズル感たっぷりの丼のアップ。妻が布に包まれた蓋つきの鍋をとると沢山の餃子が並ぶ場面。餃子を運ぶ妻の姿は外に出て一瞬輝くような爆竹のシーンが胸にしみて滲みは消えないまま。ほんの一瞬の春節の気配が長い映画の中でこんなにも素晴らしい効果を上げているとは。紅衛兵の緑と紅と、毛バッジの鮮烈な赤。冒頭の列車疾走のシーンは巨大な時代の流れが疾走していく様に思えて圧巻でした。その列車のシーンは、映画の最初の頃に人々が自分をめがけてスクリーンから飛び出す列車のシーンとも重なり合う気がしたのです。映画もたまにはいいものです。

明治43年(1910)湘南大磯の茶屋町で別荘用地一坪82円で買い上げ。当時の小学校教員の初給料15円。現在の15円が初任給20万円として一坪110万円少し高すぎでは。


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