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1973 [人]

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1973年頃の五月か六月、電車で栃木県益子に一人旅をした。この時二人の忘れられぬ人に出会うことになった。益子の駅から窯巡りをして、今でもある塚本工藝を見て灰軸の筆立てになるようなジョッキ型の器を買いもとめた。どんな鞄にしまったかと思うと派手なオレンジと茶のチェックの大きな鞄で、肩にかけられ底にはキャスターが4個ついていた。道を引きずるとがらがらと大きな音を立て、この音を雷のようだと面白がる大阪から来た青年と一緒に路を歩いた事を思い出したからだ。彼とは何故か打ち解けた。歩きながらどこに行くのかというので、目的は無いというと、浜田さんという有名な陶芸家がおられるので其所を尋ねようと彼は言う。浜田庄司氏は有名すぎて会ってくれる訳も無いだろうというと私が言うと、彼は行かなければ、それは判らないという。確かに其の通りだが確率は低い。
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二人は何か話をしながら濱田家の立派な長屋門の前に立っていた。庭に向かい大きな声で挨拶をすると、浜田庄司氏の御子息のお嫁さんのような方が出てこられた。鄭重に、見学と御本人にお会いできるのは叶わないと言われる。大阪の彼は其所を何とかと30分近くも粘る。さすが大阪は粘りがあるが、しつこいと感じてしまう。お嫁さんは、濱田家が益子に定着出来る様になるまで、どれほど苦労があったかと話して下さる。ついに諦めて門前を去ることにした。長屋門に続く白い道と、青い空の光景が今も思い浮かべることが出来る。濱田庄治氏はその五年後の1978年に亡くなられた。
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大阪から来た彼は、写真が趣味だという。岩宮武二という大御所に学んでいるという。最近東山魁夷という日本画家を尋ね、良い作品を見せてもらったという。其の作品とは、レコードの名演奏だったという。彼が作品を見せて欲しいと希望すると
おもむろに画家は立ち上がり、レコードには針を落としたのだという。益子の緑の山道を歩きながら、サイコロの話もした。彼は「賽の目の一の裏は六なのだが、一を見ているときは六は裏に必ずあるのか疑わしいという。なるほど確かに存在していると思うのは間違いかもしれない。今思えば青春とは気楽で底知れない世界だ。
悩む事が違った角度だったのか。
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あてど無く山の奥に入って行くような、不安を感じた先は明るい林になっていて陽光が注いでいた。其の林の中に老人と若い女性が動き回っていた。女性はイーゼルに立てかけた絵を描いていたような気もする。老人は髪が無いつやつやの坊主頭で釉薬になる灰を調合されていた。灰には秘伝があるのだとおっしゃいながら陽気な顔で御茶を出してくれた。陶工は菅原万之助さんと名のられた。其の前に山道で葉影に揺れる白いヒトリ静かの花を見た。花の名は大阪の彼が教えてくれたような気がする。『一人静かの夕暮れに遠花火三つ』と其の夜詠んだ。
山道で夕立に会い、万之助さんの窯場で雨宿りをさせてもらったのだと今思い出している。陶工は鎌倉の滑川の上流で窯を築いていた時代があったという。近くに川端康成も住んでいて峠の上から連れションをしたという話をされる。峠とは朝比奈峠だろう。貴方達の住所を書けば、葉書の便りをすぐさま書くと仰る。確かに家に帰るや否や速攻で葉書が届いた。陶工はマジョリカ焼の華やかなものが得意だと言う。その後東京で彼の花瓶を扱う画廊に通い5−6個手に入れた。驚いたのは逗子の中学のときの美術の恩師の家にも彼の初期の壺が飾られていた。
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大阪の彼と路を歩きながらその日の宿泊場所を探した。彼の実家は寺院のようで、宿泊は寺院を頼もうということになり山の上の西明寺という寺を尋ねた。大きな宿坊もある寺で、何度かお願いする事で宿泊を認めてくれた。食事後寺から遠くに花火があがるのが何故か切なく見えた。大広間からの花火に、一人静の花が重なって見えた。
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大阪の彼は「念ずれば花開く」と言う言葉を知っているかと聞いて来た。知らないが「美しい言葉だ」と答えた。その後この言葉の作者と不思議な縁で、鳥取の岩美へ出かけることになるのだが、、、
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tree2

益子の浜田先生には、私も思い出がありますが、
書くと長くなるから、やめときます。
by tree2 (2012-05-29 20:48) 

Ramyy*

先日は突然のTB失礼いたしました。
訪問&コメント、ありがとうございます!とってもウレシイです。

写真がとっーてもかっこいいです!!
すっごくステキですね。私もこんなふうに撮れたらいいのになぁ~
またお邪魔させていただきます♪
by Ramyy* (2012-05-29 22:43) 

sig

こんばんは。
ビデオ仲間に濱田庄治氏についてまとめた方がおります。もちろん本人とは面識がないのですが、あれこれと取材され、その心意気に打たれました。
by sig (2012-05-30 20:09) 

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