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九月二日 [いのち]

子供の頃使っていた真鍮の洗面器がある。分厚く重くその表面はごつい程に凹凸ができ真っ黒な表面は石のようである。その洗面器を偶に磨く。ピカールという磨きだしの材料や、クレンザーのような磨き粉をボロ布につけてひたすら磨く。凹凸の中なら凸の部分を中心に黄銅色の輝きが浮かび上がってくる。ブロンズ彫刻のようなまったりとしたぬめり感のある輝きが出てくる。
闇から光が射すように、命が少しだけ生きずいたかのようにひっそりと輝き出す。磨きすぎてはいけない。毎日ほんの少しだけ磨く。ひたすら少ない時間無心になって磨く。

子供の頃高熱を出すと、この真鍮の洗面器に水を入れ手ぬぐいで絞って額に乗せてくれた人がいることを思い出した。微かな光の中に輝く昔の光も潜んでいるような気がした。器の中央に小さな数字の刻印がある。掠れて摩滅した数字だが54と読める。軍用の洗面器の備品だったのだろうか。重いその洗面器には古代から存在するような不思議な風格がある。
無数の傷と、時代の風が刻み込んだ刻印が、どの角度にも見えて来る。

銅の洗面器.jpg



      


     真鍮の洗面器にも秋の風     むおん










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