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1949 [樹]

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私が生まれた横須賀の家には一本の大きな椿の樹があった。正確には根元が2本か3本の幹があり寄せ植えされている様な趣にも見えた。花は赤と白と絞りの花の3種類が咲いた。幹の途中で接ぎ木をしたようで、樹形の中では入り乱れて咲いているように見えた。赤は山椿系の一重で朱色がかった濃い赤の年もあれば、濃い紅色に感じる年もあった。毎年咲く色が違って見えるのは気候条件や、接ぎ木による為などから色素に変化が生じる為だったのだろうか。赤と白の絞りはそのバランスが様々で好きだった。白い花は毎年咲く数を少なくしていった。樹齢80年程はありそうな太さだった。祖父が植木が好きであちこちから持って来た樹木を植ている家だった。崖の斜面には大きな夏みかんの木が4本程点在していた。根元が大きな棘のある枝で、カラタチの木に夏みかんを接ぎ木したものだと後から知った。十センチ程の鋭い棘のシルエットが美しかったのを覚えている。台風が来ると落下して下のうちのトタン屋根を直撃し大きな音を立て迷惑を掛けた。
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私が生まれた家は60段以上の石段を昇った南斜面にあった。夏みかんの樹はあちこちの家で見かけ横須賀らしい光景を感じさせていた。石段をのぼり上にも何軒かの家があった。
小さな門に格子戸がつき夜にはこの門に裸電球の街灯が灯った。南に廻ると玄関があり違い戸の硝子の沢山入った建具が入っていた。其の隣りに廊下が続き東側にトイレがあった。男子用の朝顔と、金隠しの入ったものの二部屋に仕切られていた。外には南天と八つ手の木に手水鉢が収まっていた。廊下の奥は六畳間で東側に床の間、廊下側に「清風千里夢」と書かれた額が長押にかかり、北側が四畳半だった。玄関をあがっても四畳半で正面に神棚があった。其の奥が台所で、三畳と板の間一間、ちゃぶ台が置かれていて西向きに仏壇があった。板の間の下は漬け物や、諸道具の収納があり、東側の土間に続いた。土間には半分だけ井戸が土間側にありブリキの蓋がされていて、北側の外から井戸水を組上げた。最初は土間側にポンプがついていたのかも知れない。井戸の東は流し台になり、其の又東側が風呂場になっていた。風呂は木製で小判形のもので焚き口の上に上がり湯があった。薪は最初は周辺から調達したようだが、ある時から石炭になり、湯の具合がひりひりと感じ嫌だった。風呂の煙突も古くなると火の粉が家に落ちたり山に飛び火事になら内容に見張りに出る様な時もあった。
土間には南側にへっついと呼ばれる釜戸がありこれも薪で使用した。窓は無双窓と呼ばれる木の板をスライドすると光と風の量が調整出来る方式だった。手前の部屋は炭小屋で練炭火鉢や餅つきの臼や杵が収納され、ある時から石炭小屋に変わった。こんな家で1948年の冬私は生まれた。お産婆さんが家に着く前自力で誕生してしまったとは後から親に聞いた話である。この家で兄の祝言も行われたという事も思い出します。今は大きなマンションが建ち跡形もなくなった光景です。
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東側の突き当りに大きな棕櫚の木があったのを思いだしました。葉を伐ると上へ上に延び仕舞いには葉に届かなくなってしまった木です。
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コメント 6

般若坊

大変面白い絵ですね メルヘンチックで絵本に 良く合いそう・・・ ^^
by 般若坊 (2012-01-19 19:00) 

Silvermac

横須賀の従姉妹宅は二度ばかり訪れましたが、街や港はつぶさに見ていません。
by Silvermac (2012-01-20 09:29) 

海を渡る

私も家を三度変わりましたが、
中学三年までいた最初のいえは隅々まで覚えています^^。
by 海を渡る (2012-01-20 11:49) 

SILENT

般若坊さん
ありがとうございます。昔の絵本の試作ご覧下さい。
Silvermacさん
横須賀は山と坂とトンネルの町ですね。実家から目の前に山口百恵さんが十代を過ごした団地がありました。
海を渡るさん
最初の家の記憶が深いのは、何故なんでしょうね。好奇心が強い年齢からなんでしょうか
by SILENT (2012-01-20 16:43) 

COLE

記憶の絵、いいものですね
by COLE (2012-01-21 21:51) 

SILENT

COLEさん
記憶している香りも再現出来たら凄いですが
絵の中に空気感はおもいだします
銀杏も記憶の香りになりますね
by SILENT (2012-01-21 22:22) 

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