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1967 [色]

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1967年4月昭和42年の春、半月の研修期間を経て、あるアパレル会社の本社に配属された私の仕事始めは、検色の仕事だった。半月間の研修は浜松と鎌倉と横浜と小田原と、自家工場の歴史と、現在、商品の出来る迄の社員教育だった。この半月間で社会人への企業人への洗脳と、学生時代からの脱皮を計らせてくれた、思えばゆとりのある時代だったのか。
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朝九時前に出社してタイムレコーダーでカードに出勤記録を取り、五階のフロアーにあがる。五階には社員食堂と電話交換室と商品部があった。商品部の奥にある意匠室と云う名の部屋が私の職場だった。繊維製品の企画とデザインを産み出す部屋で、宣伝部は別のビルにあった。朝九時過ぎに一枚の電話申し込み用紙を持って、電話交換室の窓口に差し出す。当時は交換手が三名程働いていただろうか。代表電話番号で女性の交換手が受け、希望の部署に繋ぐ。交換手の声と応対が其の会社を大きく印象づける側面もあった時代であった。電話交換手と和文タイプ室はベテランの女性が座っているイメージがあった。ゼロックスコピー機が数年して交換台のある部屋に置かれる。テレタイプというカタカナ入力の時代も少し後にやって来た。自家工場にも二名程の女性交換手がいた記憶がある。

小学校に上がる前に母親に連れらてある大病院の電話交換室に入った記憶がある。畳み一畳程の畳みがひかれ、傍らに椅子と、大きな電話交換機が鎮座する部屋だった。布でまかれた消防ホースのミニチュア版の様なコードが、幾つもの穴に挿されていた。外線で電話がかかるとレシーバをつけた交換手が応答し、希望の回線の電話にホースの先を差し込む。
其の動作を素早く行う手さばきに見とれたものだ。今で言うリンク先へ繋がるホースは複雑に絡み合い、会話が終わると、交換手は素早くホースを抜きとる。ゴムのようになってホースは手元の元あった位置に納まる。交換手の耳に総ての会話が盗聴されている世界だが、信頼関係で世界は収まっていたのだろう。
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交換室迄20歩程の距離を歩いて帰ると、席について数分して目の前の黒電話が鳴る。黒電話はダイアル式で中央に、その電話機の識別番号が三桁で書かれ、社内の内線電話の番号一覧表が、A4のサイズで裏表に印刷され机の脇のフックにぶら下がっていた。
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申し込みの電話が交換手によって繋がると、東北訛りのHさんという女性の声がした。家内工業である製品をつくっているK繊維という職場だった。Hさんには、検色の結果を毎朝というくらいの頻度で電話連絡した。
其の内容は、製品には、何種類かの素材が組み合わされて使われていたので、それを組み合わせた時に違和感がないか、検色するのだ。具体的には総てが
赤の商品を作りたいのだが、綿やナイロンや羊毛といった素材の違いで、赤の見え方は変わって来る。其の違いを合わすことを目的に電話をする。
素材を染めるのは何回かのロット(単位)の違いで、様々な赤が出現する。
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色と色を合わせて、違うものは染め直す。そんな検色の作業は毎朝、30分程、半年間以上も続いた。当時もミノルタの検色器なるものがデジタルで計測出来ることが出来たが、同じ素材での色のばらつきを数値化して計測出来るものであった。
半年間の作業で、素材にはそれぞれの特性があり色も同様には見えないことが自然だという、素材色という領域を感じることが朧げに判って来た。それぞれの素材を組み合わせて、同じ一つの赤に見せる。至難の業であった。
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検色の条件では、3点の問題点があった。1点目は素材を見る条件だった。北窓で見るのか太陽光が何処迄入っているのか、蛍光灯下ではどうなるのか。演色性という問題で蛍光灯では沈んだ赤が、太陽光では燃えるような赤になる素材。蛍光灯でも太陽光でも燃えるような赤の素材。これでは組み合わせる条件が整わない。
2点目に検色する人の目の条件と言葉のニュアンス。人は同じ色を見ているのではないという事と、言葉のニュアンスで検色の表現の幅がひろがる。少し濃くといっても微妙なニュアンス。人の受け取り方でかわるもの。3点目は、検色する素材の条件、これが汚れていたり、髪の毛一本同志のものの検色だと、難しい。
たった二つのものを同じにするという作業、違った人間を同じにしてしまうようにも見えておくが深い。
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色を合わす、色とは何か、光とは何か、モノとはにか、入社して貴重なものを受け止めることになった。検色の作業は品質基準を高め、品質検査をデザイン面で徹底するという会社の方針で行われていたのだが。
この後から、デザイン作業で「色」を決めるという難題と、夢の世界へ入っていく。一枚の緑の葉で、この素材の色を出したいというような世界に。
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Silvermac

交換手という仕事がありましたね。すっかり忘れていました。
by Silvermac (2012-04-27 22:24) 

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