あのひから

あの日から三年過ぎて春の朝

最近確定申告で町の役場に出向いた。確定申告用紙に、復興特別所得税と印刷された箇所があった。
そうだ此の国税庁の印刷物は全国の確定申告者が目にする文字なのだと思うと何か感慨が深い。復興特別所得税という言葉は、三年前の三月十一日の朝には存在すらしなかった。昨年一昨年の申告用紙にも、この「復興特別所得税」あったのだろう。何か「特別」の持つ存在感が、言葉とは何か気になる。

東京のあの日の空から春何度

東京の空を焼尽した空襲の日から多くの歳月が流れた。想像すると臭いや色や物音が地の底から聴こえてくるようなきがするが、自分は体験していない。それはテレビや印刷物で観た世界にしか過ぎない。しかし己が体験して来た臭いや色や物音を集合させて、その日の光景を想像する事には意義があると思う。嫌な事や様々な喜び、日常の出来事や、非日常の記憶を一切かき集めて想像する。そんな事は無駄ではない思いがある。



あの日の記憶あの日の記録と春が言う



身近にある鉄板の切れ端、何かのかたちを切り抜いた残り滓の様がひかれる。
言葉の廻りを包んでいた存在が其所にある様な気配。言葉で言い尽くせないものがかたちとなってある様な存在。それはになのだろう。
残欠という言葉も好きだ。何か全体でなく、その全体の姿を本当に想像させてくれる世界。
存在するという事はになのか。無言でそこにある　かたち。



あのひからひびしわかげもまして春

彩られたペンキも剥げ、風に飛ばされた破片、時の皺を重ね、あの日の喜びや輝きの姿が刻まれた、
一片の木切れ。その全体の姿は何故か朧げな気体の中に揺れている。

春の日もあの日もおぼろ我がおもい



1980年代に描いていた自画像。点が重なり光りと影を生む点描の、点の中心を抜きとり軽くするように環を描く事の実験を此の頃盛んにしていた。環は細胞であり、重なる環は新たな光の色も生み出していた。ユーゲントシュティール（青騎士）という言葉に憧れていた。



遠い日に車窓に浮きし春景色


ロードサイド写真よりも車窓から何気にシャッターを切る行為が好きだ。
流し撮りの中に浮ぶ、人々と変電所。歓喜と電圧のブレ。


あのひからあすのあのひへ春渡る　　無音

コメント 10

短いようで長いこの三年の重みを考えなければいけませんね。
by JUNKO (2014-03-10 16:49) 

春の日もあの日もおぼろ我がおもい
この句が、心に響きます
by engrid (2014-03-10 16:59) 

環で描かれた自画像、いいですね。
by cafelamama (2014-03-10 18:19) 

SILENTさんの自画像。いいですね。「美系」は「美形」に通じると思いました。
by sig (2014-03-11 17:46) 

自画像、素敵ですね。
キュービズムも取り入れられているのでしょうか。
by そらへい (2014-03-11 21:04) 

JUNKOさま
３年間は子供達にとってはあっという間の歳月でしょうね。
大人達には長くて短すぎる想いもありそうです。
重みのある３年間である事にはどちらも変わりありませんねー。
by SILENT (2014-03-12 11:34) 

engridさま
朧な記憶には、確かな記録が役立つのでしょうね。
記憶をなくしたい方々も沢山いらっしゃる気がします。
忘れない　確かに必要でしょうが　忘れる事も大事な部分を感じます
一辺倒な答えは無いのでしょうから
by SILENT (2014-03-12 11:37) 

cafelamamaさま
無意識に我を忘れて、指先が環を描きだすと、無我の境地になれます。
あの日の自分や、まわりの姿も変わったけど、変わらないものを何か見つけ出したい気分です。自画像似てはいないけど心の自画像です。
by SILENT (2014-03-12 11:40) 

sigさま
美系は眞系にあらずして、実物の自画像とはかけ離れていますが、当時はこんな自分を鏡の中に見出していたんでしょうか。
三十代は顔にも責任を持たねばいけないころの自分です。
内面の自画像でした。
by SILENT (2014-03-12 11:44) 

そらへいさま
キュビズムは多面的な世界を一枚に濃縮するかたちで面白いですね。
一枚の画面に時間や、空間の多層化が表わせ大変面白いと思います。
横顔を描くのは好きでそれと正面顔の合体は好きなテーマです。
環と渦に関心が深かった頃です。
by SILENT (2014-03-12 11:47)