六月四日 [海]
アオバトを門坂流さんのエングレービング銅版画の上に飛ばせていただいた。ビュランという彫刻刀で銅板に直接線を彫り込み、インクを線に押し込めて印刷するエングレービングという技法は限りない根気と、神経を極度に張り詰める作業で出来上がる作品だ。その掘るという作業は何か神へ祈るという所作にも似てはいないだろうか。遠い昔学校の授業で銅板の授業があった。高価なビュランという彫刻刀まで買った。外科手術のメスにも似た刀だった。柔らかな銅板を滑らかに掘る作業は、ビュランを絶えず研ぐという所作で進行した。自分の好みは手作りの縫い針で作った、ドライポイントという技法のが好きだった。ドライポイントでは削られた銅がバリとなって掘られた銅板の表に表れる。そのバリにインクが絡みなんとも不思議な滲みを生じる。エングレービングは紙幣の印刷に見られるような、揺るぎない線で構成される。
何かビュラン刀のあのずっしりとした重みを思い出してしまった。
アオバトは今朝も夏の海へ。
2015-06-04 08:39
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コメント(6)
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素敵な1枚になりましたね。実際を見たいものです。銅版画をしがゲルまでの根気は想像を絶するものがあるのでしょうね。
by JUNKO (2015-06-04 10:58)
美術的センスはボクにはありませんが、
自分らしく素敵だと思える感性はもっているつもりです。
本当に、素敵な1枚ですね。
by はらぼー (2015-06-05 08:49)
JUNKOさま
実際の版画は線の彫りにキレがあって美しいですよ。銅版画は刷るのにインクのふき取りが微妙で神経を使います。アオバトの実物もぜひご覧になってください。肉眼で海岸の堤防からよく見えます。手の届きそうな距離を多い時で1日に500羽ものアオバトが飛行します。大磯駅前でも朝晩上空を海に向かう鳩たちの群れがみられます。
by SILENT (2015-06-05 13:55)
はらぼー様
ありがとうございます
松江の美術館に、アオバトの飛ぶ姿を描いた油絵が所蔵作品であることを思い出しました。大磯に住んだ画家の三岸節子さんの作品です。
by SILENT (2015-06-05 13:59)
これは見事な合成ですね。全く新しい作品の登場ですね。エングレービングとは初めて聞きましたが、紙幣の印刷の感じがそうですか。それを体験されたSILENTさんならではの発想だと思います。19世紀ころの市街や建物などを描いた銅版画は大好きです。
by sig (2015-06-05 22:59)
sigさま
友人が大蔵省の印刷局の工芸官でした。ビュランでの銅板印刷の歴史は明治から、それ以前に優れた木版技術が日本にはあったことも印刷で、スイスと競い合う世界水準の技術を持つ国になった理由だと思います。西洋の写真術の前の銅板印刷技術すごいですね。
by SILENT (2015-06-06 10:24)